2010年9月6日月曜日

バイオリンリサイタル@静岡


「静岡までバイオリンのリサイタルを聞きにいかない?」。それは世界各地でクラシックに親しんで来た国際金融マンK氏のお誘いによるものだった。リサイタルは日曜日。ならば前日から静岡に入って、いろいろ見て来よう、ということで土曜日の12時に東京駅で待ち合わせ、新幹線に乗り込んだ。東京から「ひかり」でたったの一時間。静岡駅に降り立つと、観光案内所によって地図を何種類かもらったのち、すぐにレンタカーを借りにいく。前回K氏とレンタカーの旅をしたのは、2006年のセビリアだったと思う。その時も予約なしで車が借りられたように、今回も問題なく借りることができた。しかし、車はあっても目的地は決まっていない。そこで「まずどこかで地図やガイドを読み込もう」(笑)、ということで、向かったのがここ、日本平。標高308メートルのこの丘からは、清水の港町と澄んでいれば富士山がきれいに見える景勝地だ。ここ日本平ホテルのカフェにてこの素晴らしい景色を見ながら、静岡のことをしばし勉強。といっても、K氏の場合は、単に駅の観光チラシに目を通すだけではない。ホテルの人に日本平の歴史について尋ねてみたり、お茶を飲みに来ている周りのお客さんの会話にも少しだけ耳をそばだてるなど、カフェに居ながら集めてしまう情報量が半端ではない。そしてそれら断片的な情報を自らの仮説でつないでいく。テーマは、静岡の政治経済から静岡での生活、人生観まで、いろいろ勝手な意見を言い合う事、約1時間。しかし一貫して検討対象となっていながら、これといった答えの見つからなかった最大のテーマは、「今晩どこで何を食べるか」であった(笑)。

しかし、その答えは思わぬところで見つかった。それは、久能山東照宮をお参りした時に閃いたのではなく、また初秋の風を受けながらロープウェイより屏風のような切り立つ山々を見た時でもない。それは、日本平の丘をおり、清水の次郎長の船宿跡を出たときであった。

「あ、魚屋だ」。

次郎長の船宿跡の2軒となりに、山七という鮮魚屋があった。「魚のことなら、魚屋に聞くのが一番だ」そうつぶやくと、K氏が店の中に入って行く。実は、ここにたどり着くまでに、既に複数の人に「お勧めのお店」あるいは「お勧めの料理」をヒアリングしてきた。しかしながら、「そうですねぇ、ドリームプラザの回転寿司なら、まあリーズナブルでネタもいいですが」「お隣のお寿司も結構いいと思いますよ」といった返答で、歯切れがいまいち。しかしあまりもう時間もかけられない、ということで「じゃあ、回転寿司にでもいってみるか」と半ばあきらめかけていた時だったのである。

「この辺で美味しいお魚食べられるところって、どこですかね?」

K氏が聞くと、「そりゃ、たから屋だよ」。店の奥から、こちらの顔も見ずに、しかし間髪入れずに返ってくる答え。これには確かな手応えがある。(「この人達は旨いところを知ってるぞ!」)。K氏の目の色が変わる。店の奥から清水区の詳細な地図をひっぱり出させて、入念に場所を確認するK氏。そして我々はこの店にたどり着いた。

「いらっしゃーい」。

のれんをくぐると、そこには一本の木からできた長いカウンター席が8席ほど。テーブル席も少々。あとは二階に宴会席があるようだ。年期の入った内装だが、全体に清潔感が漂っている。カウンターの裏には黒板に手書きのメニューが。値段は書いてないが、魚の産地がちゃんと書いてある。そしてカウンターの上には、塩水につかったトコブシが。いかにもいいモノが出てきそうな雰囲気でいっぱいである。

「山七さんに聞いたら、ここに行けって言われたもんで」。

「これお通しです」と、まず出て来たのが、カニ味噌ののった冷製茶碗蒸し。いきなり旨い。「もう一つ、海産物の盛り合わせのお通しがあるんですが、出させてもらってもいいですか?」「はい、はい、是非」と、期待を込めていうと、その期待の3倍ぐらいのものが出てくる。

「ここはすごいぞ」。

これでK氏に火がついた。お通しで既にビールを飲み干していたK氏は、「つぎは日本酒で」と地酒の純米酒「臥竜梅」に切り替え。「1号と4号瓶がありますが」「それじゃ、4号で!」。大きなボトルが出てくると、K氏がコップになみなみとつぐ。

「お客さん、今日はいい赤陸奥がはいってますよ」。

「それいきましょう」。

しばらくすると姿造りで赤陸奥が登場。「えー、これが刺身。油乗っててうまいですよー。あとこっちが多少あぶったやつ、こっちのが肝と皮で、これはポン酢で召し上がってください。あとはあらを味噌汁にしますんで」。

「うわっ。すごい」と言いながら、まずはお刺身から。わさびも本わさびで、全く手抜きがない。「うま」。「いや、ここは正解だったね」。あっと言う間に赤陸奥を攻略した後は、更に鯵のたたき、生シラスの軍艦、メギスの天ぷら、、、と次から次へと地の物を楽しむことができたのであった。

翌日は朝早めのスタートで、今度は海岸線を西に車を走らせることとした。この辺の駿河湾の海岸線には、テトラポットがずっと並んでいて、時折強い波が打ち寄せている。久能街道沿いには、いちごのビニルハウスが並び、「いちご狩り」の看板が立ち並ぶ。しかし、今はそのシーズンではない。人が殆ど見られない。東照宮の入り口付近が少し観光地っぽくはなっているが、寂しい感じである。安倍川のあたりまでくると、国道が内陸に少し入る。「少し住宅地っぽくなってきたね」。しかし今度は街道沿いに大型店が立ち並ぶ、日本でこれまたよく目にする風景となってしまった。こういう所には、2人とも全く興味が湧かない。そのまま関係ない話をしながら素通りして、結局「魚のまち」の接頭語に惹かれて焼津の漁港に行ってみた。

「なるほどね」。

焼津では、静岡名物の黒はんぺんと桜えびを食べながら、朝のコーヒーを飲んで、静岡市街へ戻ることに。そのまま今度は市街をぐるっと回って、駿府城後の県庁や市役所の集まる新市街に車を停めて、今度は歩いて散策。まずはメインのデパートの人の入りなどをチェック。そしてショップの様子などを見て歩く事に。しかし、2人とも全く買い物には興味がない。街の雰囲気を見るだけである。

「うーむ、やっぱり静岡って、銀行と役所なのかね」。

市街の一等地で圧倒的な存在感を見せるのは、県庁、市役所、区役所のお役所と静岡銀行であった。旅のメインのコンサートを前に、もうすっかり静岡をエンジョイし切ってしまった感があったが、間違いなくここからが旅のメインイベントであった。このバイオリニストはとても素晴らしく聡明なプロの演奏家で、これまでに東京で2度リサイタルの機会があった他、以前は欧州やモスクワでもご一緒する機会があり、プロの音楽家の感性をよく教えて頂いていた。とくに印象に残っているのが、「音色に演奏家の性格が現れる」ということだろうか。とにかくこの日もとても素晴らしい演奏で静岡の旅を締めくくる事ができた。

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