2010年10月24日日曜日

Better City, Better Life

「で、今日は何をされたんですか?」

我々は昼過ぎから夕方まで万博を見た後、タクシーを捕まえて、一旦浦西(プーシー)に位置するホテルまで帰って、シャワーを浴びてまたすぐにタクシーに飛び乗って再び黄浦江を渡って浦東(プードン)に来ていた。その日は浦東で在上海の知人や同僚4人に集まって頂いて、6人でディナーの予定があったからである。

「今日は、さっきまで万博を見てたんですよ」。

まさに予定通りの展開、というか、こういう会話が予想されること「だけ」が決定的な理由となって万博行きを決めていたのである。しかし、実際万博を見て得られたものは思いのほか大きいものとなった。

Better City, Better Life、の万博全体のスローガンのもと、中国パビリオンでは、いくつもの省の展示を回ると、「開発」と「環境」の二つのメッセージがはっきりと見え、沿海部だけでなく全中国を(クリーンに)開発(工業化)させ、生活水準を上げて行くのだ、という強い政治的メッセージを感じることとなった。となると、中国政府にとっては、まだまだたくさんいる内陸部の農村民に対して、いかに工業的な雇用を準備できるかが大きなテーマであり、そのためには、大きなポーションを占める輸出部門の成長を当面維持する必要があることから、米国を中心とした中国の通貨「元」の為替レート上昇圧力には簡単に屈しないだろう。一方、内需拡大政策も同時に推進する必要があり、そのためには徐々に賃上げも行って、中間層を広げる政策が必要だ、、、。といった話を一通りしてみたものの、「上海」を「日常」として日々経験しながら、目の前の問題に対処している方々にとっては、どちらかと言うと、次から次へと運ばれてくる中華料理の皿の方に関心が向きがちだったとしても、それははっきりいって仕方のないことである(笑)。

「こちらの暮らしの方はいかがですか?」

話しを現実的な方へ引き寄せた。そうしている間にも、いろんな皿が運ばれてくる。私はヨーロッパ料理も、中南米料理も、トルコ料理も、ロシアコーカサス料理も、もちろん日本料理も大変優れていると思っているが、中華料理が世界一だと思っている。それは世界一「うまい」からでも、世界一「すき」だからでもない。中華料理こそ、使われている食材と調理法の種類のかけ算によって出てくる料理の数が世界一豊かであるからだ。これは中国の地理的優位性と長年の歴史に因るところが大きいと思う。そのような世界一豊かな食事を中国の人は必ずといっていい程、大勢でテーブルを囲んで食べる。これは非常にいい文化だ。

「やっぱり、文化の違いをすごく感じますね」。

上海でコンサルティング会社の事務所を立ち上げているS女史が語る。

「なんて言うか、中国だと人と人との距離感がすごく違うんですよね。そしてものすごく、やはり個人主義的なんですよ。この辺は明らかに日本的文化とは異なるところで。日本企業から派遣されてくる駐在員の方も、この辺の違いに最初は面食らうでしょう」。

実はS女史は、自分の仕事上のつながりが少しだけあった方で、以前自分が関わっていた社内の企画に対して、素晴らしいご提案を持って来て頂いたのであった。しかしながら、この社内企画のオーナー部署が、S女史以外の会社を最終的に選んだため、残念ながら採用できなかったのである。しかし、自分は彼女のとてもプロフェッショナルで真摯な仕事への姿勢に大変感銘を受けて、その後も接点をつくるように努力していたのであった。それは彼女の能力やパフォーマンスが必ずや自分と自分の会社の成長に大きな効果をもたらす、と思っているからである。

自分の仕事上の信念のひとつ、というか、つねに心がけている原則として、こういうものがある。それは、自分と一緒に仕事をする全ての人がその仕事を最大限エンジョイできるようにしたい、そして最高のパフォーマンスを発揮できるようにしたい、そして自分と一緒に面白い仕事をして、それがきっかけとなって社内で大きく評価されて出世して欲しい。これは他社の人でも同じというか、むしろ他社の協力会社の人に対してよく思っていることである。過去、自分はそういう気持ちで欧州全土のあらゆる関係会社の人達と付き合いをしてきたし、その結果として、イギリスやイタリアの会社の人達と特別な関係をつくることができた。そういう人達と今でも時々会う機会があるのは大変嬉しいことだ。特にイタリアの会社の方から今では仕事の関係が殆どなくなったにも関わらず、時々連絡をもらっている。しかし、自分は決して接待を受けることはしない。前回も、最高のイタリア料理で5コースの食事を若いイタリア人のセールスマンと食べた事があったが、2人分自腹で逆にご馳走させて頂いたのだった。それは接待を受けているからその会社を贔屓していると決して思われたくない、という気持ちもあるにはあるが、どちらかと言うと、やっぱり我々のためによく仕事をしてくれていることへのお礼の気持ちの方が強い。この若いイタリア人のセールスマンとは、こうして何度もプライベートで食事をしながら(いつも必ずお決まりのイタリアンレストランだった)、お互いがどう協力し合ったら素晴らしい成果が挙げられるか、どんな事をすることが新たな価値の創出につながるのか、といった話をし、そして相手も本当にそれによく応えてくれた結果、自分たちも彼らの助けのお陰で今までにないパフォーマンスが発揮できるようになった。このS女史は、いつかそのように面白い仕事を通じてお互いWin/Winの関係をつくっていきたい、と思っている一人であることは間違いない。

「明日はどんな予定になってるのですか?」

いつもその日の予定は朝食を取りながら決めるのがこの旅のパターンになっていた訳で、もちろんこの段階ではまだ未定であったが、おそらくもう一日万博に行くだろう、という話をしていた。そしてその通り、翌日は今度はもっと早い時間から万博会場へと足を運び、前日の中国、アメリカ、に続いて今度は、インド、日本、フランス、オランダ、などを中心に丸一日か以上を歩いた。その結果、万博への各国のアプローチの違いや、日本の強み弱み、そして中国の今の状況など、非常に示唆に富んだ経験を得ることができたが、その夕食の晩の時点では、そこまでの事はまだ予想すらしていなかったのである。

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