2010年12月9日木曜日

静安寺(ジンアンスー)

上海の最終日にあたる4日目は、その前々日がそうだったように意気揚々と早朝のジョギングから開始する程の元気は残っていなかった。


前日は二日目の万博に乗り込み、その前の日に中国、米国という現代の覇権を争う2大国のパビリオンを見たのに続き、朝早くから炎天下を精力的に歩き回った。その結果、インド→タジキスタン→キルギスタン→日本→フランス→オランダ→クロアチア→スロベニア→リトアニア→アルゼンチン、と前日を遥かに上回る成果(笑)を上げられたのである。


「しかし、これだけ見ると、やっぱ万博って、面白いよね。国によって、力の入れ方とか全然違うし」。


例によって朝食はゆったりモード。最終日の今日は食べ始めで既に9時をまわっている。


「しかし、あれだね。ヨーロッパのと比べると、日本は本当真面目だよね」。


日本パビリオンでは、建物のつくり、展示物のつくり具合、出し物の種類と数、等で他のパビロンを圧倒しており、「すごい」というよりも、「真面目だなあ」という感想が第一に湧いてきた。国の威信をかけて真面目にパビリオンを出す。そんなことは当たり前ではないか?と思われるかも知れないが、国によっては、完全に手抜きした様子がありありと分かるのである。


「やっぱりヨーロッパの国は、こんなんじゃ勝負しないんだな。余裕だよ。余裕」。


数日前に外難地区でヨーロッパがアヘン貿易で中国をこじ開け、とてつもないビル群を建てて中国を支配した様子をまざまざと見せられた後だけに、思わずヨーロッパの底力に怖れをなしてみせる。


「それにしても、日本のあの舞台は頂けなかったなあ」。


日本パビリオンでは、日本の伝統、感覚的な美、そしてテクノロジー系プロダクトを全面にアピールしていた。かと思うと、最後にメインイベントと言わんばかりに通された部屋が、完全にシアターとなっていて、そこで繰り広げられたのが、能とミュージカルの融合のような舞台パフォーマンスであった。しかし、これがテーマ性のない中途半端なもので、何ともいただけなかった。


「で、今日はどうするかあ。金融機関行ってみたかったけど、今日は祝日で休みみたいだし」。


金融機関巡りは最終日に取っておいたのだが、何とこの日は中秋節の祝日で、ホテルでも「月餅」が無料で配られていたのである。


「じゃ、こうしない。最初に静安寺にいって、それから買い物は?」


こうして、もうお昼まじかになって向かったのが、ホテルからタクシーでワンメーターのところにある静安寺(ジンアンスー)であった。


この静安寺というのは、街中にポツンと飛び出す仏教寺であるが、これが実は悠久の中国史を象徴するかのような寺で、その建立はなんと247年。三国時代の産物である。


入ってみると、広場の真ん中に三重塔がたっており、何故か皆これにむかってコインを投げている。おそらく投げたコインがこの中に入ると幸運をもたらすことになっているのだろう。


「すごいな、これ。まるでコインの雨だ。お金を皆で投げ合うってのは、しかし何とも行儀が悪くないか?」


しかし、ふとみると、既に友人は腕をまくって、振りかぶってコインを投げ始めている。


そして次の瞬間、自分の足下にも、コロコロと銀色のコインが転がって来た。手に取ってみると、Yi Yuan。中国人民銀行1元。と書いてある。1元硬貨だ。大きさは、1ユーロコインよりも一回りだけ大きい。


「よっし」。


こっちは野球部で背番号「1」をつけて投げていたんだ。これぐらい、軽い、軽い。それっ。


「あ!」


上に向かって投げた筈のコインが、力を入れ過ぎたせいか、グイーっと曲がって、人混みの中へとライナー性の放物線で突っ込んで行く。そもそもコインなんて真っすぐに飛ぶ筈がない(笑)。


一瞬、誰かに当たったのではないかと焦ったが、しかしここは中国。日本だったら、人混みに硬貨がすっとんできたら、白い目で見られるのは明らかであるが、ここでは誰一人そんなこと気にする様子もない。何事もなかったかのように、線香に火をつけて広場でもお祈りをしているのである。


これに安心すると、次から次と転がってくる硬貨を拾い上げては、ひとしきりコイン投げに興じると、不思議と心が落ち着いてくるのであった。

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